懲りない奴ら
はたからみれば、ただのなんてことのない光景だっただろう。 ソファーに腰を下ろしたダンテの膝の上には、ネヴァン。 ネックを布でなで上げるようにして、丹念にぬぐう。大さっぱな性格のくせに、 武器の手入れとなると、ダンテは人が変わったように丁寧になる。 口角に笑みを浮かべた男と、同じ気持ちなのだろう。ときおり、ネヴァンも 害に成らない程度の紫色の雷を上げて応える。 しかし。 バージルの眉間に、深く、太い皺が刻まれた。 膝のうえのものが、あざやかな紫色の楽器にしか見えないのは、 人間だけの目だけだ。 おそらくダンテにも、楽器にしか見えていないのだろう。だが、悪魔の血の 濃いバージルには、はっきりと分かる。 膝の上にいるのは、まぎれもなく、一人の女だ。 ダンテの首に細い腕を絡めてしなだれかかり、男の瞳を射ぬく。 ぬりたての朱の唇からは、やるせないため息。布の間からみえる白い脚は、 男の腰にからみつき、時折、歓喜にうち震える。 「ダンテ」 出てきたのは、尖った声だった。 「ん〜?」 忙しい、とばかりに生返事しか戻ってこない。 「ダンテェ!!」 怒声に驚いたのだろう。 ばちん、とネヴァンに電流が走り、手からするりと抜け落ちそうになる。 「危ねっ!」 必死にダンテはネヴァンに手を伸ばした。 バージルのことなど、二の次だ、とばかりに。 「・・・・・・」 バージルの中で、疑問のスイッチが入った。 それは、うすうす感じてはいたが、今まではあえて無視しつづけていたもの。 「おい、なにすんだよっ」 ぐいっと腕を掴みあげると、力まかせに引き上げる。慌てたダンテは、 かろうじてネヴァンをソファーの上に鎮座させた。 「いいからこい」 「はぁ? オレ、せっかく武器の手入れをしてるのに・・・」 「煩い、愚弟が」 ネヴァンは、怒ったように、雷を起こした。が、そんなのは知ったこと ではない。 この猛り狂った怒りの矛先を収めなければ、この家ごと吹き飛ばすことに なるだろう。 過去のことになど、興味はない。 子どもではないのだ。ダンテも自分も、決して短くはない時間を生きてきた。 その間には、様々な出会いもあっただろう。 それに、あれだけのルックスと性格だ。女が放っておくわけがない。 理屈では、分かっている。こんなことを気にすることは、愚かなことだ。 (しかし――) 掴んだ腕に、力がこもった。 ネヴァンに向けられたダンテの微笑み。口元を余裕で緩めたそれは、 たしかにオスのにおいがした。 ――こんな表情をするコイツを自分は知らない。 どうにかなりそうだった。 *** 「な〜に、怒ってんだよ」 無我夢中でたどりついたのは、書斎だった。 このにやけた面を閻魔刀で切りつけてやったら、さぞすっかりすることだろう。 「ひょっとして、ネヴァンに妬いてんの?」 「そんなことあるか」 「顔に書いてある。寂しいのならキスさせてやるけど?」 ダンテ一流の皮肉は、今はただ、心の中のドス黒い感情を 逆撫でするものでしかなかった。 「死にたいか」 今にも閻魔刀を取り出して、過去の女たちを始末しに出かけたいくらいだ。 「その時」に、ダンテがどんな顔するのか。 それは、俺だけが知っていればいい。 なのに、彼を抱いてばかりいたせいで、乱れる顔は知っていても、 乱すときのそれを見たことがない。 嫉妬で煮えくりかえったはらわたが、悔しさで焼きつきそうになる。 「――おい」 何の前触れもなく、ダンテの唇が重ねられた。 すぐに離れたそれは、二度目は深いものに代わった。 「知りたいんだろ?」 「貴様・・・!」 このときほど、双子であることを恨んだことはない。こちらの心のうちなど とっくに、伝わっている。 「どんな顔して、女を抱くのか」 「俺は女ではない」 「知ってる」 普段なら、とっくに押し倒して俺の下であえがせてやるところだが、 それはできなかった。 どうしようもなかった。 こんなに手慣れた感じで、何人の女を口説いたのか。 俺の下で甘いうわ言をつぶやくこの唇で、女にどんな甘言をつぶやいたのか。 普段なら、俺だけを欲しがってふるえるこのみだらな腰は、どう女を穿つのか。 「試してみれば?」 不可抗力だった。 →NEXT
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