Trick
窓の外から、遠く、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。 バージルは、料理の手を止めた。 そういえば今日は――。 「なんだ、ダンテ」 思い起こすまえに、後ろから二本、腕が伸びてきて、腰と首に絡まってきた。 「おまえの分の肉が焦げるぞ」 「あ〜。そうだな」 鼻先をこちらの肩に埋めるようにして、ダンテは密着してきた。 いつものマシンガントークも今はただ沈黙を守っている。 窓の外の子どものはしゃいだ声。 「おまえ、ひょっとして」 理由は明快だった。 「仲間に混ざりたいのか?」 今日はハローウィンだ。 「ちげーよ。ただ・・・」 顔を上げて反論したが、その続きはいわなかった。 額をオレの頭に寄せて、ただふて腐れた。 「・・・懐かしいな」 父と母が生きていたときには、先ほどの子ども達のように、意気揚々と ハローウィンに参加したものだった。 ダンテとおそろいの衣装を着て、脅かしたり、脅かされたり、ガキ大将と 喧嘩になったこともしばしばだ。 引き取りにきた母に、怒られるどころか、逆に「あんな年上の子によく勝ったわね」と 誉められた。めったなことでは表情を崩さない父が、複雑そうな表情を浮かべていた。 その日の夕食は、いつもよりあたたかい気がした――。 あれから、何年経ったのか。 喪ってみて、初めてそのかけがえのなさに気がつくのだ。 あの「家族」はもうどこにもない。 「おまえにしては珍しく、ひどくセンチメンタルだな」 つられて気弱になった心を払拭するように、突き放したように言った。 「ひでぇな」 「ふん、決まりのセリフを言えば、飯をあたえてやらんでもないぞ?」 今夜は、ひさしぶりに依頼がない。 だからこそ、夕方から厨房でダンテの好きな料理を作りまくっていたわけだ。 もっとも「好きな料理」とは教えていない。こいつを喜ばせるのは、 なんだかシャクだからだ。 身体に回された腕に、ふいに力がこもる。 「・・・!」 きつく抱きしめられ、耳たぶを、かぷりと甘噛みされる。 次に来たのは、腰にずしりと響くような甘い響きをはらんだ声。 「Trick or treat?」 「・・・・選ぶ時間くらいあたえたらどうだ」 ふくれあがっていく欲望を、押さえつけるように声を絞り出した。 すでにこちらの下半身に、イタズラをしかける手の甲を軽くつねる。 「いつもより施してくれんのなら、いくらでも」 「サービスしろとでも? どっちにしろ、悪さをする気のくせに」 にやけた顔を、思いっきり睨みつける。 「正解」 そのまま横抱きにされる。 「ちょっと待て!」 フライパン返しを振り上げながら、制止する。エプロンも着たままだし、 なにより――。 キッチンの上には、下こしらえの済んだ皿が並んでいる。 「なんだよ?」 「おまえの」 ――好きな料理が、冷める。 いいかけて、止めた。 こいつを喜ばせるのは、やっぱりシャクだった。 「・・・フン。お手並み拝見といこうか」 憎々しげに呟いてやると、ダンテは楽しげに喉を鳴らした。 それに――。 どうせなら仕返しするのなら、ベッドの中ですればいい。 なにせ今日はハローウィンなのだから。
ハローウィンに便乗して、双子をいちゃつかせてみました(笑) |