revenge 「いいか、バージル。これだけは言わせてくれ」 「・・・後にしろ」 そういった男に待つ気なんてない。 きっちりと着込んだ襟元に中指をつっこみ、煩いものでも扱うかのように、 力任せにくつろげていた。 素早くシャツを脱ぎ、床に放りなげる。 「オレの話が先だ!」 こっちの事情なんてお構いなしに、あんまりにヤル気な兄貴に、 文句の一つをいおうと口を開いたときには、お約束の展開が待っていた。 「大切な話なんだ・・・-―んっ」 片腕を掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。 反論は、口づけで封じ込められた。 最初は浅く。次第に深く。 -―ああ、反論しなくちゃな。 そう思ったときには、奴に腰を抱かれ、キスをねだっている自分がいた。 「話を聞いてやるぞ、ダンテ?」 目を開けると、そこには得意そうにほくそ笑む顔があった。 反論なんてできるわけねえ。 「るせっ・・・んっ」 「さっきの勢いはどうした?」 腰の高さのところで、ジッパーが鳴る。焦りで声が、うわずった。 「バージルっ、待てよ-―アッ!」 こいつの指は、優雅なる暴力だ。 肌の上を滑る動きは、絹の感触でも確かめるかのような上品さだ。 宝物でも扱うかのように丁寧なくせに、追いつめるときには容赦がない。 「なんだ。こんなにいやらしい場所が好きなのか?」 「ン。ば、かやろッ――。そういうことじゃ・・・ンッ!!」 「聞こえるか? ずいぶんと悦がってる」 ながく美しい指先が奏でるのは、ひどく卑猥な水音。 キスされて、前を触られて、バックに挿れられながら、耳元では 下品なことばが次々と囁かれる。 「っ・・・ぁ-―うっ! くそっ、・・・ンッ。ぁ、そこ-―イイッ−ぁあッ!」 意志に反して、身体の奥底が、急激に燃えあがっていく。 ――もうどうにでもなれ。 どうしようもなく鮮烈で、意識も飛びそうなほどの快楽に溺れる。 両手をひろげて、バージルの背中にしがみつく。脚をからませて腰を振ると、 バージルは応えるかのように、高ぶりまくった欲望を乱暴に叩きつけてきた。 速度がどんどん速くなり――悦楽の絶頂が姿を目にした瞬間。 「やばっ。バージル・・・オレ・・・アッ――んぅッ! も、うっ・・・あっ」 ふいに、あばれまくっていた男の動きが止まる。 「――バージル?」 うるさいほどの荒い吐息の中、ひどく冷たくいいはなった。 「さあ、話があるんだろう? 聞いてやる」 一瞬、なにが起こったのか分からなかった。 が、先ほどの話なのだと分かったときには、すっかりこの世の天国に イくタイミングを逃していた。 「てめっ」 ――コイツ、わざとやりやがった。 「さあ、言えよ。そうしたら逝かせてやってもいい」 「んっ!」 挿れたモノで中をえぐりつつ、バージルが囁いた。 「さぁ。どうする? このまま止めてもいいんだぞ?」 だめ押しとばかりに、意地悪く「オレ」をやんわりと弄びやがる。 じんわり、と広がる緩やかな痺れに全身が小さく震えた。 「さぁ、どうする?」 ゆっくりと、バージルは中のものを抜き出しにかかった。 「挿ったままだと言えないか?」 「ざけんなっ――ンッ・・・あっ・・・ぁッ-―出てくな! ・・・まだっ・・・いやだッ! 言う、から――」 ソレが抜き出されそうになった瞬間から先のことを、オレは覚えていない。 大きな声で、叫んでいたのだけは確かだ。 非難。喘ぎ。懇願。そして――。 一筋の涙が、頬を伝った。 「おまえって奴は――」 バージルが何事か低い声で呟いていたような気がするが、聞き取れなかった。 同時に、身体の奥で、激流が叩きつけられていた。 *** 「機嫌がわるいな」 すべてをいいようにされた後。 バージルが、気遣うように顔をのぞき込んできた。 「話かけんな、万年発情男」 その言葉に、男は眉根を寄せた。 奴のお嫌いな品のないセリフだが、そんなことかまっちゃいられない。 結局言いたいことも言えずに、そのままになっていたからだ。おまけに、 ヤりたいほうだいされて、腰がダルくてしょうがない。 「不満そうだな」 「ああ、不満だとも! いつもなし崩しにしやがって!」 ――オレにも、アンタを愛させてくれよ。 カラカラになった声で叫んだのは、多分こんなセリフだったと思う。 いつもオレを追い立てるのはバージルで。暴力的なまでに愛をそそぎこんでくるのも、 こっちの脳がイカれそうなくらいの幸福感をくれるのも、バージルで。 オレの気持ちの行き場所だけが、見つからない。 睨みつけると、バージルは天を仰いだ。 「無理だ」 短く言うと、黙り込む。 無表情な中で、どう話をまとめたらいいのか困っているようにも見える。 「テメェだけイイ思いしてんじゃねえよ」 「我慢しろ」 「ざけんな。もういい。アンタとは永久に寝ない」 そういうと、だだっ子でもあやすような口調になった。 「分かってないな」 「それはアンタだ、この分からず屋ッ!」 「どうして俺がおまえの要求を入れないのか考えたことがあるか? すべては、お前が原因だ」 「はぁ? 俺のせいだって!?」 訝しげな視線を送ると、バージルは観念した、とでもいわんばかりの 表情になった。 「俺がお前を愛させないんじゃない。お前がそんな暇を作らせないからだ」 「分かるように言え!」 「あのときのお前の姿態。矯声。喘ぎ――」 目の前には、困り切ったバージルの顔。 よくよく見ると、幸せのあまり鼻血でも出してんじゃないかと思うくらい、 幸せそうな表情だった。 「すべてを喰らいつくさずにはいられない。それくらいお前に」 ささやかなオレの抵抗は、こめかみにおとされた口づけでごまかされた。 「溺れてる」
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