instinct



  


  

――さすがに言い過ぎたか。
 リベリオンを握りしめたまま、表情をこわばらせるダンテを前にして、
バージルは小さく嘆息した。
 だが、深く椅子に腰掛けたままの姿勢と、開きかけの本はそのままだ。
 いつものように剣の稽古をねだる弟を、「読書中」だといって蹴り飛ばした。
 かまってくれない、とふて腐れる弟を見てみたい、と思ったのが
そもそもの間違いだったのかもしれない。
 ここ数週間同じ手をくらえば、いかに鳥頭のダンテだろうと
自然と学習するだろう。
「アンタはいつもそうだ」 
 がらり、とリベリオンが弱々しく床に転がる。崩れ落ちるように、
ダンテは膝をついた。
――そこまで、気にするようなことなのか。
 一瞬のためらいが、判断をにぶらせた。
 ダンテの手が、太股の上に置かれた本に伸びてきた。
「なにを――」
 腹いせに本を破られるのではないか。本を高く持ち上げて防御したが、
見当違いだった。
 ダンテの目的は――。
 俺の下腹に、手が伸びてきた。ジッパーが、重たい音とともに下げられた。
「貴様!」
「いつも一人きりの世界に入っちまって、オレの気持ちなんておかまいなし、と
きたもんだ」
 布ごしに、やわらかな吐息でくすぐられる。
 兄弟のスキンシップにしては、度が越えている。
「おい!」 
「取り残されたほうの気持ちなんて、考えたことねぇくせに」
 ちらり、と見上げるダンテの視線に、一瞬息がつまった。
 それは、二週間前の晩に見たダンテの瞳と一緒だったから。
――アレは、冗談のはずだ。
 この弟は、負けず嫌いで、テンションが高いように見えて、まだまだ未熟だ。
 母親が殺された夜のことを思いだしてか。 
 ときおり、ひどく脆くなる。
きつく、息ができないほど抱きしめてくれ、とねだられたのは数週間前のこと。
 子どもだな、と苦笑していると――。 
突然、唇に――。
「止めろ。不道徳だ」
 口づけをされて、どう答えたらいいのか分からなかった。
 兄弟としての情か、それとも別のものなのか。はたまたその両方なのか。
 冗談は止めておけ。そういい放ったときのダンテの傷ついたような顔。
 それが今、腰のあたりにある。
「あの夜のこと、冗談だと思ってんだろ?」
 ダンテは、布地の間から、「俺」を掴みあげ、
「おい。まさかーーー。やめっ。アッ!」
 頭の部分に、音を立ててキスをした。
「アレから疼きが止まんねーんだよ」



***



 嘘だ。
 なにかの冗談だ。
「へぇ。双子でもやっぱり違うもんだな」
 妙に感心しながら、形を確かめるように指で愛撫してくる。
「キレイな色してる。ひょっとして触られんの、初めて?」
「うるさいっ!」
 図星を指されて、顔がかぁっと染まった。
「まさか自分でしたこともねぇのかよ」
「あっ-―やめろっ!」
 軽く唇を当てられただけなのに、ソレは雄々しく頭をもたげていた。
「こんなに悦くなってるのに?」
 こちらの反応が面白いとばかりに、笑う。
 思わず、椅子の肘掛けを握りしめた。
最初は、軽くなでるように。次に、トリガーを引くように、きゅっと
絞り上げるように。
 ついに――。
 大きく開かれた薄い唇の中に、ソレが吸い込まれていき――。
「・・・いやだ」
 低く、うめく。
 大きく開いた脚の間に身を潜らせたダンテは、熱いものでも食べるかのような
息を吐きながら、食らいついてきた。
「こんな、品のないこと・・・ウッ!」
 容赦なく、ダンテの唇が卑猥な水音を引き出していく。 
「や・・・め、ろ! 貴様、恥を知れ!」
「んっ・・・ンッ――ハっ、アンタの、すっげ。旨い・・・ンッ」
 そういいながら、ひどく愉しそうな顔して喰らいついてくるダンテを
見ていると、無性に腹が立った。顔に、膝蹴りを浴びせる。
 しかし。
それは、奴にチャンスを与えただけだった。
「おっと!」
 ダンテはとっさに手でガードすると、そのまま、膝をぐっと掴んだ。
「やめんかっ、ダンテ!!」
 かつてないほど、だらしなく開かされる。
 あまりの下品さに、顔を逸らす。
 上半身の着衣はなに一つ乱れず、ただズボンと下着の残骸を
くるぶしに巻きつかせ、息を乱す自分がいる。
 逃げようにも、膝を掴まれたままでは、どうしようもない。
「・・・いいねぇ。『屈辱』ってカンジが」
 かけられたのは、いかにも軽い声。
 火照る顔で、なんとか睨みつけると、ダンテはにっと唇の端を
つり上げた。
「さぁて。ショータイムだ」
 ダンテの表情が、がらりと変わる。
 荒い吐息を、欲望のすべてを隠さない野性の雄の顔だった。
 まるで夢でも見るかのように、甘く。
 すべてを食い尽くすかのように、獰猛に。
 必死で、しゃぶりついてきた。
「・・・つッ!」
 かつてないほどの甘い痺れで、全身を打たれた。
 肘掛けに爪を食い込ませると、背筋が不自然なほどに反りかえる。
行き場を無くした快感が、背筋を駆け上がっていた。
 唇の音。濡れた音。耳まで犯され、身体には未知の感覚を引き出され、
それだけで息が耐えそうなほど、火照ってくる。
「・・・・・・くッ」
 喉から吐息がこぼれ落ちそうになると、唇を噛みしめて、堪えた。
 だが、我慢は、悪循環でしかない。
 体外に抜け出ない快楽で、全身がガクガクと震えた。
 さざ波は、すぐに高い波となって、快楽に慣れていない身体をさらいあげる。
 びくん、びくん。頭からつま先までが、大きく痙攣する。
「離れろ、もう・・・来る、から!」 
 終りのときは、情けないほど近くにあった。
「いやだね」 
 俺の腹の上にある顔は、どける気配すらみせない。
 そればかりか、はやく出せとばかりに、俺の腰に腕をからみつかせ、
一層深く呑み込もうとした。
「やめっ。・・・それだけは――だめだ、勘弁、しろッ」
 上体を大きくねじりまげ、かぶりを大きく振る。
 こいつは弟で、しかも双子で。こいつのことを父母から頼まれているのに――。 
 なのに、当のダンテの顔といったら!
 興奮で薄く染まった目元。唇を大きく開いて『俺』を呑み込む、惚けたような眼差し。
欲望をせかすように、チロチロと悪さをする尖った舌先。
「もうっ、ン! ・・・もうッ!!――だめだっ、アッ、来る、くるっ、あア!」
 腰が、自分の意志ではないかのように、大きく跳ね――。
「・・・・・・あッ、ぁあっ、クッ・・・ァアああッ!」
「Come on,baby」
 さもいとおしそうに、男はすべてを呑み込んだ。






***



「なぁ。いいだろう?」
 荒い息の中、ぼんやりを見上げると、ダンテが正面に立っていた。
「アンタのなかで、したい」
 涙でくもった眼では、表情がよく見えない。
 だけど、どんな顔をしているのか分かるような気がする。
 肌を合わせている中で、いつしか通じ合っていた。
――もう、抗えない。
 倫理観も理性も、どこかに吹き飛んでいた。罪悪感など、
この欲望の前では、無意味だ。
 首筋を舌先でなぞられたあと、軽く歯を立てられる。
 同時に、ぐっと膝の裏を高く掲げられ、身体の中に押し入ってくる灼熱。
 濡れた吐息が、二つ、こぼれた。
――この男のすべてが、欲しい。
 それは、二人の本能。











<あとがき>

ギャッホー!!なんかERO話ですいません。

微妙に、以前フンマスさまから回していただいた
DMCバトンっぽい話「ERO方向で暴走しまくりな兄貴と弟」に
なってしまった!(笑)

うーん、やっぱり自分で書いたのじゃ、燃えませんよ!!
初々しい兄さんシリーズ(なのか!?)を書いてみたい・・・
というより読んでみたい(もしくは見たい)なぁ。



読んでくださって、ありがとうございました!

BACK