(2月1日更新)



8・剥奪




 バージルは右の眉だけを不機嫌さそのままに動かして、弟をねめつけた。
「少しはしゃんとしろ」
 時計は、とっくに午後を回った夕方に近い時刻。
 寝乱れ放題のシーツの中、銀髪が沈没している。
 ふいに、間からすらりとした伸びた足が伸びる。わずかに動き、
「・・・・・・よく言う」
 死にかけたゾンビのような声があがった。
 ダンテは、顔だけをドアにむけ、忌々しそうに小さく舌打ちした。
「原因はアンタだぜ?」
 それだけ言うのもダルいのか、すぐに枕に顔を埋もれさせた。
「いい加減に起きろ」
「いやだね」
 ごろん、と寝返りを打つ。
 毛布を剥ぎにかかると、ダンテは身体を丸めてその中に隠れた。
 目の前には、巨大な団子状のダンテ。
 重いため息が、唇の間をすり抜けた。
「今夜は、依頼が入っていたはずだ」
「アンタが行けよ」
「自堕落すぎる」
「うるせぇ」
 がばり、とダンテは身体を起こした。
 白い肌には、淡い桜の花びらが無数に散っている。
「なら、少しは加減を考えろ! オレはさんざん依頼があるって言っ・・・ッ!」
 言うなり、身体を丸めて、腰をさすった。
「・・・責任とれよ」
 バージルは、本日二度目のため息を、いとも優雅に吐き出す。



***



 しどけない姿態をさらして、恨み言を呟かれたほうの立場も考えてもらいたい。
 毛布に手をかけると、ダンテはうわずった声を上げた。
「ちょっと待て。依頼は?」
「気になるのか」
「そりゃ・・・」
「そのまえに、お前にはお仕置きが必要だ」
「ふざけっ・・・ッ、ん、ゥ」
 唇で、反駁を封じる。
 しかし、簡単におれる弟ではない。
「ーークソッ」
 肉を食い破ろうと、舌に当てられた歯に力が込められる。
 一度、唇をもぎはなし、顎のラインに、唇を這わせる。
 力が抜けたのを確認すると、うすい下唇を甘くかじりついた。
「んっ、クッ・・・ぁ。くッ」
 ゆっくりと。
 征服するかのように。
「・・・ん、ぅ。ぁぁ、・・・ん・・・ぁン、ふ」
 息が続かなくなる寸前。
 ようやく大人しくなった。
 吐息が混ざり合うところで、ダンテは困ったように言葉を落とす。
「もう無理だって。これ以上されたら、壊れちまう・・・」
 いやいやをする頬を、ぐいっと掴むと、そのまま固定した。
「つつしみのない貴様が悪い。それに」
 顔を最大限に近づけ、睨みつける。
「壊れるだって? これがそんなヤワな身体か」
 唇に触れるか触れないかの距離で、囁く。
「俺の上にまたがって、最後の一滴まで絞り上げたのは誰だ」
「ばっ・・・!」
「足りなくて、指でイかせてほしいと懇願したのは、どこのどいつだ?」
「やめっ」
 ダンテは頭から毛布を被る。
 追い掛けるように、俺はその間に、指を忍び込ませた。
 数時間前まで、激しくうごめいていたそれは今は静かに息づくだけ。
 だが、汗を含んだ肌のなめらかさは、昨夜の火照りを残している。
 腰のラインを指でなぞると、びくん、と大きく跳ね上がった。
「だ・・・め、だッ」
「嘘つけ」
 悪いのは、甘い劇薬のようなこのカラダ。
 快楽をもとめてやまない貪欲さだ。
 しおらしい台詞のすべては、罠。
 こいつは、最初から狙っていたのだ。
「欲しくてたまらないくせに」
 ーー怠惰をとがめられるのを。
 力任せに、毛布を剥ぎ取る。
 美しくもしたたかな獲物は、なまめかしく微笑していた。
 俺を困らせるのが、楽しくてしょうがない、とばかりに。




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お題はこちらからお借りしました。
「お題場様」http://odaiba.daa.jp/index.html

 
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