2・鎖につながれる

(危険なエロ 10のお題より)




 これは、至福のとき。
静寂の中、バージルは、日に焼けて茶色になったページをめくる。
若い本とはちがう、重たい音と手触り。
かすかに鼻孔にしのびよる古い書物に特有なかびの匂い。
読書家には、たまらない時間だ。
唇をついて出たのは、感嘆のため息。
「そんなに面白いのか」
 ソファーの背もたれの後ろから、肩越しに本をのぞき込んできたのはダンテだ。
 バージルの唇から息がこぼれる。今度は、あきらめの吐息だ。
「気になるなら貸してやるが?」
「あ〜、そうだな」
 それより、と呟きながら、俺の手から本を奪い取ると、サイドテーブルに置く。
「さて、今日は何の日でしょう」
「知らん」
「クリスマスじゃねーか」
「俺たち悪魔には関係ない行事だ」
 きっぱりとはねつけると、ダンテは、「わかってないな」とばかりに首をすくめた。




 本日、二度目のため息をつく。
 奴の思惑は、分かっている。
 ダンテは、なにかの行事につけて、いちゃついてこようとする。
 そこが、かわいらしいとも言えなくはないのだが、調子に乗るので本人には黙っておくことにしている。
 俺にはお構いなしに、なにやら企んでいるらしいダンテは、
紙袋から何やらごそごそと取り出すと、にんまりと笑った。
「ーー貴様」
 閻魔刀を手で呼び寄せ、柄を親指で押し上げる。
「何をするつもりだ」
「クリスマスと言えば」
 巨大なリボンを取り出すと、俺の身体にぐるぐると巻き付ける。
「オニーチャンからのプレゼントをいただくしかねえだろう? 」
「却下」
 音もなく、赤と緑のリボンをみじん切りにすると、ダンテは頭を抱えて叫んだ。
「うおお!! オレの夢がぁああーーー!!」
 ちょっと待て。
 クリスマスプレゼントが「俺」か。
 一体、何をさせるつもりだったんだか。
 単純、かつ品性のない発想に、頭痛がしてくる。
 が、悪巧みが頭の中をよぎった。




「うわっ。何すんだよ」
 ダンテの両腕を縛り上げると、ソファーに突き飛ばした。
 尻餅をついて、何度かバウンドした腹の上に座る。
「バージル? なんか目がすわってん・・・ンぅッ、ん、ぅ・・・」
 小うるさく騒ぐ唇を、おのれのそれで塞いだ。
 弾んだ吐息の間で、いい聞かせるようにささやく。
「ねだるつもりなら、まずはお前が差し出すべきだろう?」
 一瞬の沈黙。
 ダンテはびっくりしたような顔をした後、すぐに口元に笑みをたくわえた。
 奴が悪ノリするときに浮かべるそれに、「かかってこい」とばかりに流し目を送る。
「今日はアンタを独占していいわけ?」
 いいながら、視線をサイドテーブルの上に流す。
 普段から、ダンテは俺が読書に熱中してるのが気にくわないのだ。
 あの手この手で妨害してくる。
 実は、それをあえて無視して、むくれるお前を見るのが楽しくてしょうがない。
 自由奔放なお前を縛っておけるのは、俺くらいなものだ。
 だが、そんなことはおくびにも出さない。
 なぜならーー。
「俺を独占するだって? お前にそれができるのか?」
 突き放したような口調で、縛られた手首の結び目を、指でなぞる。
 組み敷いた身体が、びくん、と上下した。
 明らかに、この先の行為を、期待している。
「・・・相談なんだけど」
「なんだ?」
「どっちが上?」
 何も答えずに、もう一度、その唇を貪る。
 絶対に、言わない。
 なぜなら、本当は、お前という鎖につながれているのは、俺の方だから。






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<あとがき>
・クリスマスに便乗して書いてみました。
・双子は、色々と年中行事にかこつけていちゃつけばいいのさ(笑)
・ダンテがノリノリでアニキがため息をつきながらつきあってあげる・・・に二万ガバス賭けます。
 

■お題はお題場さまからお借りしました


 
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