cresent moon 「誰がいったもんだか知らねぇが、大当たりだよな。 ・・・澄ました顔した奴ほど、スケベだってな」 薄暗い、室内。 巨大なベッドの上で、二つのため息がこぼれた。 馬乗りになったダンテが、興奮そのままに笑った。 「・・・わかる? オレの中、タイヘンなことになってるぜ」 「気のせいだ・・・」 バージルは、整った眉根に深い皺を寄せ、荒い息を吐いている。 快楽に浮かされているようにも、どこか嫌悪感のぬぐいきれない ような表情にも見えた。 「・・・アンタのその顔が、気にくわねぇんだよ」 最初の夜から、なに一つ変わらない。 -―せがむから、抱いてやったのだ。お前のことは、興味がない。 厳粛そのものといった剣士の表情が、崩れたところを見たことがない。 バージルの振るう閻魔刀の描く、弧。 欠けた月のような美しい弧。そして、すべてを凍らすような冷たさ。 彼が欲しいものは、この世でただひとつ。 ダンテが欲しいものも、この世でひとつ。 バージルがそれを求めている限り、ダンテが欲しいものは、永久に 手に入らない。 その焦りが、悲しみが、行為を激しくさせた。 「ッ・・・クッ・・・おい・・・そろそろ。やめろっ、おい!」 「いやだね」 中にあるものを刺激するかのように、ダンテは腰を揺する。 「すげえ、まだイけんの? これで・・・何回目・・・-―ぁっ。そこ -―いいっ、ンッ!」 快感に背筋を振るわせながら、真下の男の表情をそっと盗み見る。 弾んだ呼吸を吐き出す唇。なのに、どこか冷めた青。 カラダの中で、バージルが脈づいている。 ひとつになっているのに、果てしなく遠い。 月を見上げる負け犬のような心境だ。 下卑たことばで挑発しても、娼婦のような振る舞いでも、この男の 気持ちを向かせることはできないのか。 「ぁ・・・ふっ・・・ちくしょう」 遠い。 世界中でいちばん近くにいたいのに、果てしなく遠い。 のけぞり、荒い呼吸を吐き出しながら、狂ったようにかぶりを振った。 「・・・ダンテ?」 ベッドが壊れてしまいそうなほど、激しく軋んだ。 「なぁ、アンタ、オレのこと好き?」 いつもの軽口に似た睦言とはちがう、悲鳴に似た叫び。 「なんだ、い・・・きなり」 「オレがいないと、ダメ?」 「-――」 「オレじゃ足りない?」 濡れた眼差しが、ぶつかり合う。 ふいに生まれた、空白の瞬間。 バージルは、答えなかった。 ダンテは、唇の端を緩ませる。 ただ、妖花がほころぶように、乱れた。 「・・・泣いてるのか」 すべてが終わったあと、頬に手を伸ばした。 あやすように、ゆっくりを動かすと、ダンテは顔を逸らす。 「なんのことだよ」 にべもない言葉に、バージルは肩をすくめる。 そのまま眠りに入ろうと、シーツの間に身を滑らしたとき。 「・・・しろ」 背中ごしに、かすかな声が聞こえてきた。 「なんだって?」 「・・・キスしろ」 バージルはため息をつきながら、黙って身をかがめると、 リクエストに応えた。 離れていく瞬間。 「どこにも行くな」 小さく、だが、はっきりと呟いた。 昔から、この弟は、どさくさにまぎれて無理難題を押しつけてくる。 しばらく前から、弟との間に感じる違和感。別れるべきときが 近づいてきたのかもしれない。 だが、結論を先延ばしにしながら、今日までやってきた。 それというのも-―。 目の前には、むくれきったように丸められた背中。 バージルは、思わず苦笑した。
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