CANNOT STOP
気がついたら、止められなくなっていった。 静かな深い青に包まれた夜。ベッドの上には、しろいケダモノが二匹。 「信じらんねぇ」 相手の銀髪を、手荒く後ろに引っ張る。 あえぐ犬のように舌先を見せつけながら、うすい唇に食らいついた。 「すました顔して、アンタって意外にキてんだな」 そういわれたバージルは、顎をのけぞらせながら応戦してくる。 「・・・っ」 最初は、あざけるように。 次は、奪い返すように。 最後は、かみつくように。 「おまえは・・・」 唇と吐息が、荒々しい音楽を奏でる。 「意外性がないな」 ことばに誘われるようにして、ダンテは目をひらいた。 目の前にあるのは、濡れて朱をさしたような色をした唇。 ゆっくりと動いて、宣告を下される。 「品がない」 「きらいか、オニーチャン?」 下から舐めあげるように、視線を動かす。 「それは-―」 言葉よりもはやく、とけかかった身体をつきとばされた。 「お前が判断しろ」 *** 多分、事務所の外に聞こえるくらいの声だったろう。 「バージ・・・ルっ。・・・もっと、ていねいに・・・ッ-―ぅ。ふ。 あ、ァ、アァあ-――!」 ベッドに膝と手をつき、中で暴れる猛りに合わせて、カラダをくゆらせる。 夢中だった。 バージルの唇から漏れた、くぐもった声が背中をなであげる。 背筋が、ぞくりと震えた。 あれほど冷酷な男が、同じ官能に身をゆだねている。 不機嫌そうな眉間には、いっそう皺がよっているのか。きれいに 整えられた髪は、どれほど乱れているのか。 温度の低い唇は、 どんな形になっているのか-―。 想像しただけで、あられもない声が、喉からせりあがる。 「もう少し、つつしめ」 「うるせ・・・ぁっ、すげぇッ」 文句を言いながらも、バージルも感じているらしい。 カラダの中で、雄がますます力強さをましていく。 「ふッ-―やべぇ・・・くッ! アンタ。ヨすぎ-―あぁァっ!」 欲しいと思い始めて、もう何年たったんだろうか。 永遠に手に入らないと思っていたものが、今、手の中にある。 だが、代償はあまりに大きすぎた。 声は、闇に溶け-――。 -―罪がひとつ、生まれた。 *** あちこち痛む身体に、薄目を開いたとき。 バージルはベッドに半身を起こし、頭を抱えていた。 巨大ななにかに全身を撃たれたような、弱々しさ。 「どうした」 出てきたのは、枯れかけた声だ。 こちらに視線を向けられた顔は、いっそう苦しそうになった。 兄の気持ちは痛いほど分かるが、むっときた。 抱いて、抱かれた直後にする顔じゃない。 「悩むなら、三回もイくんじゃねえよ」 あけすけなことばに、バージルの顔に険しさが増す。 「オレとアンタの相性は、最高」 起きあがって、奴の唇に自分のそれを触れそうなほど近づけ、 ささやく 「気持ち良ければイイだろう? なんなら今からもう一回ヤるか」 平手が、飛んできた。 「お前には倫理観が」 「ねえよ」 叩かれたままの格好で俯きながら、毒づく。 「じゃあ、アンタは後悔してんの?」 それで、バージルは、はっとしたようだった。 複雑な表情のまま、うつむいた。 だけど、どうすることもできない。 バージルもオレもほしいものは、同じだから。 気がついたら、お互い、止まらなくなっていた。 しかし、満たされた気持ちと引き替えに、オレ達は大きなものを 喪ったらしい。 たいしたことじゃない。 そう思いながら、心の奥で罪悪感が渦巻いている。 だけど-―。 「バージル」 せつなさを言葉にする。 この思いすらふきとばす、焦げそうなほど熱くてせつない気持ち。 その正体をしらない。 たぶん、知らないほうがいい。 知ってしまったら、一緒にいられないような気がする。 ならば、快楽で覆い被せてしまえ。 「今度はアンタの番だぜ」 バージルの首に腕をからめて、肩口に顔を埋める。 今はただ-―。 「オレを誘ってみな。とびっきり下品にな?」 -―二人でこのあいまいな感情を分け合えれば、いい。
今回は兄+弟にしてみました |