Cannot stop3






ーーケモノみたいなアンタを見せろ。
 つきつけられた言葉への結論は-―。
「・・・マジかよ」
 バージルは、オレの正面に膝を落した。
 最高級だと認めたものしか口にしない頑固な美食家の暴挙に、声が踊る。
 腰のあたりにあるバージルは、うっすらと笑みを浮かべた。
「-―欲しいか?」
ついっと、濡れた舌を差しだし、囁く。
「ああ。こっちのサービスは大歓迎だ」
 しかし。
欲しいものは、与えられない。
「おまえは」
 かわりに腰をぐいっと両手で掴まれ、引き寄せられる。びくん、と
つま先が震えた。
 バージルの吐息が、「オレ」をくすぐっている。
「にえきらない俺を見ていらついていたようだが」
 いっそ触れてくれたらいいのに。
 紙一枚の距離まで唇を近づけ、ゆっくりと口を開いた。
「-―ふっ」
 同時に、指が、尻の肉を、やわやわとほぐし始める。
「俺だって、お前以上に苛ついていた」
 囁くように、ときには愚痴るように、恨み言をつらねる。そのたびに、
熱い場所を吐息がなめ上げる。
-―それだけじゃない。
 声が、どこか遠くに感じた。
「同じ罪に溺れながらも、おまえはいつでも自由だ」
 意識が薄くなり始めてきたのに、唇と舌をくれない。
 じれったくて、我慢できなくて、不覚にも反応してしまった。
「まだなにもしてないぞ?」
 ソレを見て、バージルはわざとらしく苦笑した。
「うるせえっ!」
「-―いい顔だ」
 夢をみるように、バージルは囁く。
 俺を見上げる、冷たい青が、ゆっくりと溶け始めていた。





「バージルっ。頼むからそろそろッ!」
 焦りそのままに叫んだ。
「俺はずっと、その生意気な顔をこんな風にゆがませてやりたかった」
 なのに、出てきたのはとんでもなく不穏なセリフ。
「アンタ、やっぱり性格悪いな」
 どれくらいの時間が過ぎたのか。
 与えられるのは、高尚な口説き文句と、吹きかけられる吐息だけ。
「おい・・・!はやくしろよ」
 緩慢と追い上げられるのも、もう限界だ。
 自然と、腰がねだるように揺れていた。
 刺激をもらえないのなら-―。
銀髪に手をつっこんで、引きよせようとするが無駄だった。
「欲しくてたまらないのか? いつもそうだな。お前の行為は
 性急で品がない」
「・・・うるせっっ、あッ」
 ちゅっと軽い音が上がる。
 先ほどバージルにきゅうきゅうに締め上げられていたソレは、少しのことでも
過剰に反応した。
 これくらいのことでも、イきそうだ。
「元気だな」
「ざけんなっ」
 からかいの声を非難するように睨みつけると、視線が重なり合った。
「なるほどね」
 快楽のまじった青には、確かなメッセージ。
 それは-―。
「やっと・・・アンタの本気が見えた」
 ゆっくりと目を閉じる。
狂いそうなほど焦らされながらも、奇妙なあたたかさで満たされていった。






「そんな可愛らしいことを言っていいのか? 後悔するかもしれんぞ」
 バージルは、再びオレの濡れた先端に唇を近づけ、宣告する。
「-―お前の身体に教え込んでやる」
 突然。
バージルの唇が、大きく開いた。
そこから姿を現したのは、少し尖った歯と、薄い舌先。
なんのためらいもなく、オレを飲込み――。
「ぁっ-―!」
 与えられた感覚の激しさに、目の前で火花が弾けた。
 ケモノが水を舐めるような濡れた音。尖った歯の感触。
そして、バージルの弾んだ吐息。 
「あぁ!! アッ・・・いきなり、そんなとこ舐め・・・ッ、んっ!! アッ!」
 腰が、大きく跳ねた。
逃げようとしても、許してくれなかった。乱暴に腰を掴まれ、頬一杯に貪られる。
「そこっ・・・! ウっ・・・イイぜ-―ぁっ・・・もすこし・・・きつくっ」
頭をのけぞらせながら、男の髪をかき乱す。
「んっ」
 ソレを口の中から吐き出すと、男は囁いた。
「俺の望みを教えてやろう」
 思わず、生唾を飲込んだ。
 氷の海を思わせる青は、欲望でぎらついている。
「おまえは俺に汚されて恍惚としてればいい。俺だけを感じて、ずっと溺れていろ。
 おまえは」
 目眩に似た衝撃が、身体を駆け抜ける。
「俺のものだ」
 この関係は、罪。
 欲しいものを手にしたまま、罪から目をそらすには、これしかない。
 このまま、果てもなく、手を取り合って墜ち続けよう。
-―それは、理性をかなぐり捨てた男の意志表現だった。
「・・・なかなかクレイジーだな」
「怖くなったか?」
「まさか!」
 両腕を伸ばして、男を求める。-
 肉食獣の甘噛みみたいなキスの嵐が、降ってきた。
「楽しくイこうぜ?」
 ふたたび。
 二匹の飢えたケモノが、獲物に食らいつく。
 もう止まらない。





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